大阪南港ATC「マンモス展」
2020年8月4日(火)に大阪南港ATCで開催されている「マンモス展」に行ってきましたので、その内容を一部ご紹介します。観覧を検討中の方、興味のある方の参考になればと思います。
当日は混雑を避けるため開館前に到着するよう家を出ました。到着後、平日ということと一部の学校で夏休みが始まっていないこともあり、開館待ちは10組くらいしかいませんでした。
マンモス展について
近年、北極に近いロシア連邦サハ共和国の永久凍土から数万年前のマンモス・仔馬・バイソンなどの古代動物が発掘されています。それらは化石や骨格のみならず筋肉や内臓などの軟組織が氷漬けの状態で発見されています。
こうした動物たちの貴重な姿の一部分は、2020/7/31〜2020/9/22まで開催の大阪南港ATC「マンモス展」で見ることができます。
今回の目玉は、2002年にロシアのサハ共和国で発見された17,800年前の「ユカギルマンモスの頭部」です。マンモスの頭部としては、現時点で最も保存状態が良い完全な標本です。
それ以外の標本で「ケナガマンモスの鼻」「仔ウマ」は、3,4万年前のものとは思えない程、はっきりとした形で残っており、こちらも一見の価値があります。
標本の年代は、「放射性炭素年代測定」という死後に下がり始める「炭素14」の存在比率の減少した数値によって測定が行われています。
【参考】
「マンモス展」は、大阪展開催まで以下のスケジュールで開催(予定含む)されていました。名古屋開催については、新型コロナの影響により、残念ながら中止となっています。
・2019/6/7〜11/4 日本科学未来館(東京・お台場)
・2019/11/23〜2020/2/24 福岡市科学館
・2020/3/14〜6/14 名古屋市科学館 ※開催中止
発掘マップ
・「ユカギルバイソン」・・・年代:9,300年前(発掘:2011年8月)
・「ユカギルマンモス」・・・年代:17,800年前(発掘:2002年)
・仔ウマ「フジ」・・・年代:41,000~42,000年前(発掘:2018年8月)
展示物(一部)
「ユカギルマンモス」(頭部冷凍標本)
(撮影禁止のためビラの一部を掲載しています)
・特別重要文化財(ロシア連邦)
・年代:17,800年前
・発掘:2002年
・発掘場所:サハ共和国 ウスチ・ヤンスク地区 イリン・ヴィラフチャアンニア川下流地域
標本は、体高(肩の高さ)282.9cm、重さ4~5トンのユカギルマンモスの頭部で、マンモスの頭部としては、2020年8月時点で最も保存状態が良い標本です。
その姿は、現代の象とは全く異なり、大きくねじれた牙と小さな耳など、冷凍標本ならではの迫力があります。
「ユカギルマンモス」(頭部冷凍標本)は、2005年に名古屋で開催された「愛・地球博」でも展示され、それから14年の時を経て再来日しています。
ケナガマンモスの鼻(冷凍標本) ※世界初公開
・特別重要文化財(ロシア連邦)
・年代:32,700年前
・発掘:2013年9月
・発掘場所:サハ共和国 ノボシビルスク諸島 マールイ・リャホフスキー島
「ケナガマンモスの鼻」(冷凍標本)は、今回世界初公開になります。
アフリカゾウの鼻は2つの指状突起、アジアゾウの鼻には1つの指状突起がありますが、2013年に世界で初めて完全な形で発掘されたこの標本は、鼻の上に1つの突起と下には2つの突起と計3つの突起があり、3つの突起で草をむしっていたのではないかと考えられています。実際は2mぐらいの長さがある鼻ですが、これはその3分の1ぐらいです。
マンモスのおとなの鼻は、一般的に死亡後はすぐに肉食獣に食べられたり、腐敗するなどしてほとんどが失われ、なかなか発見されることはありません。このマンモスの鼻はいくつかの偶然が重なり合って、死後すぐに凍りついてそのまま保存された大変貴重なもので、これまで考えられていたマンモスの鼻の形状を覆す発見となった貴重な個体標本です。
仔ウマ「フジ」(冷凍標本) ※世界初公開
・特別重要文化財(ロシア連邦)
・年代:41,000~42,000年前
・発掘:2018年8月
・発掘場所:サハ共和国 ベルホヤンスク地区 バタガイカ・クレーター
仔ウマ「フジ」は、世界で初めて欠損のない完全な仔ウマの遺骸として発掘され、液体の血液と尿も採取されています。4万年前といえば、日本の野尻湖周辺でナウマンゾウが生存していた時代にあたります。
ちなみに「フジ」という愛称は、永久凍土から発掘された古代の成獣には最初に発見された場所の地名が、幼獣には1体ずつ発見者や発掘参加者に由来する名前がつけられるということで、その名前がつけられたそうです。
ケナガマンモスの皮膚(冷凍標本) ※世界初公開
・特別重要文化財(ロシア連邦)
・年代:31,150年前
・発掘:2018年8月12日
・発掘場所:サハ共和国 ベルホヤンスク地区 ユニュゲン
この標本は、2018年8月に「マンモス展」にあわせて、ロシア北東連邦大学と日本との合同調査が行われた際に、サハ共和国ベルホヤンスク地区ユニュゲンで採集されたもので、後ろ足から腹部にかけての広い範囲の皮膚の標本です。
非常に生々しい状態で発掘されたこの皮膚には、マンモスがなぜ極寒の地で生き延びられたのかを解き明かす鍵が隠されているといわれています。
「ユカギルバイソン」(冷凍標本) ※世界初公開
・特別重要文化財(ロシア連邦)
・年代:9,300年前
・発掘:2011年8月
・発掘場所:サハ共和国 ウスチ・ヤンスク地区 ヤナ・インジギルカ低地 チュクチャラフ湖
このバイソンの標本は体毛も一部保存されており、胃の内容物まで採取されています。草原の環境からツンドラへと植生が変化していった中で、バイソンは徐々に生息範囲を狭めていったと考えられています。絶滅期の様子を研究する貴重な標本です。
仔イヌ(冷凍標本) ※日本初公開、ライチョウ(冷凍標本) ※世界初公開
【写真左】仔イヌ(冷凍標本)
・特別重要文化財(ロシア連邦)
・年代:12,450年前
・発掘:2015年8月
・発掘場所:サハ共和国 ウスチ・ヤンスク地区 スィアラアフ川流域
年代からして、すでに家畜化が進んでいたのではないかと考えられています。仔イヌのため、種の特定が困難ということですが、家畜化の過程を解明する上で重要な標本です。
【写真右】ライチョウ(冷凍標本)
・特別重要文化財(ロシア連邦)
・年代:1,600年前
・発掘:2016年8月
・発掘場所:サハ共和国 ベルホヤンスク地区 ユニュゲン
1,600年前にもライチョウが生存したという証明になります。白い羽毛がわずかに残っています。日本のライチョウとの関係性が気になります。
ケナガマンモス模型
今回の「マンモス展」では、ケナガマンモスの模型が展示されていました。
骨格だけでも迫力がありますが、「湾曲した牙、全身の体毛、ガッチリとした体つき」など、やはり復元された模型の迫力はすごいです。現代に生存していたら、間違いなく地上最強の生物になるでしょう。
発掘場所「サハ共和国」について
ロシア連邦を構成する共和国の一つです。
ロシア連邦は、85の連邦構成主体からなる連邦国家で、その内訳は、46の「州」、9の「地方」、3の「市」、22の「共和国」、1の「自治州」、4の「自治管区」で構成されており、サハ共和国は、その22ある「共和国」の一つです。
面積は、ロシアの約4分の1を占め、日本の8倍以上の大きさを持ちます。
1月の平均気温は北極海沿岸でー28度、その他の内陸部では-50度に達します。7月の平均気温は北極海沿岸ではわずか2度、一方内陸部では19度まで上がります。
サハ共和国の北東に位置するオイミャコという村では、1926年1月26日にはー71度を記録し、最近の観測では、2018年1月17日にー65度を記録しています。
当たり前ですが、釣った魚は外気に触れた途端凍りつきます。冬はー50度以下になるため、細菌やウイルスによる感染症にかかることはほとんどないそうです。冬場は、インフルエンザ、コロナウィルスなどとは無縁なのでしょうか。
マンモス復活の夢
1996年から近畿大学で始まった「マンモス復活プロジェクト」では、冷凍標本から得られた組織を使って研究が行われ、2019年3月にマンモスの細胞核が生命活動の兆候を見せたということが報告されています。しかし、細胞核に含まれている遺伝情報が思った以上に損傷していたため、残念ながら細胞分裂直前のような変化は途中で止まり、それ以上の活動は見られなかったそうです。
このような研究は、絶滅種復活の糸口につながるのみならず、医療・環境など、様々な分野で役立つことが期待されています。しかし、絶滅種の復活については、倫理的な問題や生態系への影響など多くの課題があり、どのような未来を作るべきか考える必要があります。
現在、ゲノムを解析・合成し、人工的に細胞をつくり出す「合成生物学」など、生命のさまざまな情報を解読して操作することが可能となりつつありますので、将来、映画「ジュラシックパーク」のようなテーマパークが実現するかも知れません。
永久凍土からの発掘で気になること
ここ数年、数万年以上前の古代生物が永久凍土から発掘されることが増えています。
今まで古代生物についての発掘は、化石がほとんどで古代生物の姿はそれらから想像するしかありませんでしたが、永久凍土からの発掘で正確な姿を知ることができます。
このような発掘は、太古の生物に興味のある人には喜ばしいことですが、裏を返せば数万年溶けることのなかった永久凍土が溶け、それらの標本が人目につくようになったということで確実に地球温暖化が進んでいるということだと思います。
JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)の調査では、日本の年平均気温は、100年あたり1.15度の割合で上昇しています。
その影響は、ご存じの通り「数百ミリ以上の豪雨、40度以上の猛暑、台風の大型化」などがあり、深刻な問題となっています。
私たちが生きている間はないかも知れませんが、いずれは映画「インターステラー」のように、移住できる星を探す旅に出る時代が来るのではないかと子供たちの未来を気にしています。
ショップグッズ(一部)
マンモスの体毛
会場特設ショップで「マンモスの体毛(¥29,700(税込))」が販売されていました。いい値段しますが、自宅で約3,000万年前のマンモスの体毛を見ながら、その時代を想像するのもいいかもしれません。
「ギャートルズ×マンモス展」アクリルキーホルダー
1974,5年頃にテレビアニメで放送されていた「はじめ人間ギャートルズ」と「マンモス展」コラボのアクリルキーホルダー(¥660(税込))です。
種類は、「ゴン、ドテチン、マンモー」の3種類がありました。画像では分かり難いかもしれませんが、「ゴンの赤いパンツがヒョウ柄!ドテチンがもつのは串カツ!マンモーの牙にたこ焼き!」、どうやら大阪会場のためだけに書き下ろされた限定イラストのようです。
マンモス学習帳
大阪会場オリジナルキャラクターをあしらったマンモス学習帳(¥352(税込))です。こちらも大阪限定商品のようです。
表紙には、グリム童話「ブレーメンの音楽隊」風に、「仔ウマ「フジ」、ユカギルバイソン、マンモス」が描かれています。
感想
「ユカギルマンモス」の頭部は、湾曲した大きな牙で現在の動物にはない迫力がありましたが、「ケナガマンモスの鼻」は、本当に3万年以上前の生き物の一部とは思えないほど状態がよく、それが目の前にあることが衝撃的で軟組織の感じから今にも動き出しそうな生き物としての生命を感じました。
仔ウマ「フジ」も4万年以上前の標本ですが、その形がはっきりと残っており、そこから「液体の血液と尿」が採取できたということに驚きました。採取した血液、筋肉、骨髄を使って本当に古代生物を復活させることが可能ではないかと思います。
今回の「マンモス展」は、生き物のそのままの形ある冷凍標本ですので、子供はかなり楽しめると思いますが、大人もそれ以上に楽しめると思います。
この機会を逃すと、次回はいつお目にかかれるか分かりませんので、少しでも興味があり行ける人は「マンモス展」に行くことをおススメします。